生命保険は相続時とても役に立つ

日本における生命保険の加入率は、ピーク時の1994年には95%、近年下降してきてはいるものの現在も約80%ほど普及しており、日本は生命保険大国とも言われています。
これほどまでに普及している生命保険ではありますが、契約者は商品や保障内容についてどれだけ理解されているでしょうか?

この章では、生命保険と相続税について解説していきます。
私は今までに2000人以上の保険の見直しや活用方法について、アドバイスさせていただいておりますが、その中でも相続に絡んでよくあるケース、よく質問されるケースを中心にまとめてみました。
皆さんの相続対策の参考になれば幸いです

・ 生命保険金は相続財産ではない

生命保険の受取人が相続人であった場合でも、保険金はいったん被保険者の相続財産となり、そのまま相続人に相続されるというものではありません。
生命保険は、税法上、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。しかし、これは税法上の取り扱いであって、民法上、被相続人の相続財産として、相続人に承継されるものではなく、保険金受取人が直接保険金を取得できます。
なんだか難しいとお感じのかたのために、いくつか問題となる例を見ながら解説しましょう。

保険金は相続財産か?

例1
Q: 父親が自分(長男)を受取人に指定した生命保険に加入していましたが、先日死亡しました。相続人は自分を含め5人いますが、支払われた生命保険金は、すべて私のものになるのでしょうか?それとも、相続分にしたがって、分けなければならないのでしょうか?
また、父親には多くの借金があったため、自分を含めて相続人のすべてが相続を放棄することも検討しています。そうなった場合でも自分がこの保険の保険金を受け取ることは可能ですか?

A:  受取人が誰かがまず問題!
生命保険金が相続財産となるかどうかは、受取人が誰と指定されているかによって変わってきます。
これは最近めったにあるケースではありませんが、生命保険の受取人が亡くなった本人であった場合、つまり、自分を受取人として自分に生命保険をかけていたときは、生命保険金は相続財産となります。
これに対し、受取人が亡くなった本人ではなかった場合には、生命保険金は相続財産とはなりません。
ですから、ご相談の件では、生命保険金は受取人であるあなた固有の財産となるのです。
保険金の受取人は、保険契約者の権利を譲り受けることではなく、当初から受取人固有の権利として保険金を受け取ることが可能です。つまり、保険金の受取人が相続放棄をしていても保険金を受け取ることができます。
相続放棄ではなく限定承認した場合も同じです

遺言による保険金受取人変更~受取人固有の権利か?

例2
Q: 保険法改正により、平成22年4月1日以降に締結した保険契約において、遺言書により保険金受取人を変更できるようになったとのことですが、この度、諸事情により、死亡保険金の受取人を遺言書で変更しようと考えています。
通常の保険契約では、受取人の指定・変更の際の保険金請求権は、受取人固有の権利として、相続財産には含まれないとのことですが、遺言書により保険金受取人を変更する際は、この保険金請求権は、一旦相続財産として扱われることになるのでしょうか。
もしも、相続財産として扱われる場合は、保険金の受取人が相続放棄したときに、保険金を受け取ることができなくなってしまうのではないかと不安です。

A: あくまで指定された受取人の固有の財産!
質問にもあるように、平成22年4月より保険法の改正により遺言書による保険金受取人を変更できることになりました。
これまで、遺言によって保険金等の受取人を変更することについては法律上の定めがありませんでしたが、保険法の施行により、遺言によっても受取人を変更することができるようになりました。
 しかし、「保険金受取人の指定・変更」という形で遺言書に記載されたとしても、原則例1と変わりません。新しく受取人が指定された保険金は、新しく指定された受取人の「固有の財産」です。新しい受取人=相続人が相続放棄をしたからといって、新しい受取人の「固有の財産」の生命保険金を受け取ることができなくなるようなことはありません。

上記の2例を見てみてお分かりのとおり生命保険の保険金は、相続財産ではなく受取人固有の財産であることが理解いただけたかと思います。
保険の相談を受ける中で、意外に多いケースが、生命保険の保険金受取人の指定を安易に指定している方が多いということです。
「受取人はなぜこの方に指定したのですか?」と契約者に質問してみると、「特に深くは考えず指定した」「普通妻が受け取るものだと思ったから」「長男だから」「保険会社の人に言われたから」などの答えが返ってきます。
それだけに、相続の際に受取に関して揉めるケースが非常に多いのも事実です。
離婚をして再婚した場合に受取人を前妻から変更していなかったために、現在の妻が受け取れなかったり、保険会社にその事実を告げずに、内縁の妻を受取人にしていたが、受け取れなかったり、その他、子供に平等な財産分与を考えていたにもかかわらず、長男の受取人指定しかなくそれが実現できなかったなど・・・
トラブルは尽きません。

また、逆に死亡保険金の請求権が相続財産に含まれないために、助かったというケースもあります。
例えばお客様である中小企業の社長が先日亡くなりましたが、最近の不況も重なり多額の負債を抱えたままの死亡でした。
担保に入っていた自宅や土地は全て債権者より差し押さえられ、残された遺族、特に奥様は途方に暮れていました。
ところが、その社長は生前、奥様を保険金受取人と指定した生命保険に加入していたことがわかりました、社長の債権者は、当然奥様が持っている保険金の請求権を差し押さえようとしました。どうやら、保険金の請求権を相続したものと考えているようです。
この差押は許されるのでしょうか。
もうお分かりでしょう。
結論から言えば、社長の債権者が保険金の請求権を差し押さえることはできません。
なぜなら、保険金の請求権は、相続人である奥様の固有財産、つまり、社長からの相続云々は一切関係なく、あくまでも、奥様の個人の財産であるとみなされるからです。
これは、相続について限定承認をしようが、放棄しようが、全く関係はありません。ですから、相続人であるあなたが取得する保険金の請求権は、相続債権者が手を出せるものではないということです。
このことで、奥様は住み慣れた自宅は手放すことになったものの、保険金の受け取りにより、再出発されました。

さて、平成22年4月の保険法改正より遺言による保険金受取人の変更が可能になったということは、先ほどの質問からもお解りかと思いますが、その遺言による受取人指定のご質問が最近増えていますので、説明を付け加えておきましょう。
まずは、以下のようなケースは、どうなるのでしょうか?

「相続人の」範囲は民法に規定されている。

例3
Q: 受取人を「相続人」として生命保険に加入したときに、遺言である知人に全財産を遺贈するとあれば、保険金はその知人がうけとることになるのでしょうか?

A: 保険金請求権は「相続人」としての個人の固有の財産になりますので、相続財産とはなりません。したがって保険事故発生当時の相続人となりうるべく個人が受取人となるため、知人は保険金を受け取ることはできません。

これまでにも愛人や内縁の妻を遺言により受取人に指定した判例などいろいろなケースがありますが、それらが認められるかは結論を申し上げると正直「微妙」であります。
基本的には、上記例3の「相続人」の固有の財産と認識いただいた方がよいかと思います。

これまでは、保険契約者が亡くなった際に保険金受取人を変更する旨が記された遺言があった場合には、生命保険契約で定めた保険金受取人と遺言で新たに指定された受取人のそれぞれから、遺言通りに保険金を支払うことについて同意の確認をすることで、保険会社は支払いを行っているケースが殆どでした。
しかし、生命保険契約で定めた受取人と遺言で新たに指定された受取人との間でトラブルとなり同意できない場合、手続きが進められず、保険会社がどちらの方に保険金を支払いするのかを確定できずにいることがありました。
上記のようなケースは、意外に多くそのトラブルを回避するために行った法改正でもあります。
 
このような問題を解決するには、一般的には、遺言を作成するまでもなく、本来契約の受取人を指定・変更する手続きをしていただくだけで十分です。現在指定している受取人を別の方に変更したい場合、手続き自体は本当に簡単な書類のやり取りで済みますので、面倒だと手続きを怠らずに保険会社に速やかに連絡のうえ、手続きされることをお薦めします。
逆に被相続人の遺言があることがわかったらどうすればよいでしょうか。
遺言書は、原本を公証役場に預け、その写しを推定相続人や相続人の代理人(信託銀行や弁護士など)、受遺者(遺言によって贈与を受ける人)に預けているケースや、原本を本人が保管、または推定相続人や相続人の代理人、受遺者、友人などに預けているケースが一般的です。
被相続人に万が一のことがあり、家族などが遺言書を保管していたり、契約者の遺品の中から遺言書を見つけた場合で、その中に生命保険の受取人を変更する旨の記載があったら、直ちに保険会社にご連絡することです。遺言で新しい受取人を指定されていたとしても、保険会社へご連絡をしなければ、保険会社自身も新しい受取人を知ることができないため、その連絡の前にもし従来の受取人からの請求があれば、従来の受取人に保険金を支払うことになります。支払い後、遺言による受取人変更の申し出をしても、遺言で指定された受取人に改めての二度払いには応じません。
遺言は、民法上の遺言の方式を満たした有効なものである必要があります。また、具体的に保険金請求権に対する遺言の書式になっている必要があります。遺言の正確な方式については、必ず公証役場などにご確認ください。
当然遺言にて受取人を変更する場合、遺言書の方式が法律上適切でない場合には受取人の変更を保険会社は受け付けることはありません。
遺言書の方式が法に則した正しいものであることが必要です。また保険金受取人の変更記載事項についても注意が必要です。後々のトラブルを防止する為にも、実際に遺言書を作成される場合は、専門家に依頼されることをお薦めします。
また、保険会社によっては、新しく指定される保険金受取人の範囲を、約款等で指定している場合がありますので注意が必要です。

相続放棄・・・・相続人が自分のために生じた拒絶する意思表示のこと。相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述する。

限定承認・・・・相続人が相続によって得た財産の限度において被相続人の債務を弁済すべきことを保留して行う相続の承認。

遺 贈・・・・遺言で財産を他人に無償で譲与すること。